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2020年1月号 痛み治療の新常識

2020年1月号 痛み治療の新常識

2020/01/14

    昨年末に一冊の新書を読みました。腰痛は歩いて治す からだを動かしたくなる整形外科(講談社現代新書)という本です。著者の谷川浩隆先生は整形外科専門医でありながら、日本心療内科学会評議員もされている凄い先生です。腰痛に限らず慢性の痛みに効果的な治療について記述されていますが、ズバリ名著です。

    時期を同じくして元フジテレビアナウンサーの八木亜希子さんが、線維筋痛症のため、しばらく休養されることが公表され、インターネットのトップニュースやテレビのワイドショーでも線維筋痛症がとりあげられていました。線維筋痛症は原因不明で全身が慢性的に痛む病気です。

    当院では以前から線維筋痛症の診断と治療を行っていますが、運動療法(歩行など)や心理的アプローチである認知行動療法が有効なことは慢性腰痛にも当てはまります。効果的とされる薬剤も共通しているため、慢性化した腰痛、頚部痛、関節痛に対しても線維筋痛症に対する治療経験がおおいに役立ちます。

    谷川先生の本にもありますが、慢性化した腰痛に対してこころにうまくアプローチすると自然治癒力が高まるというのはまったくその通りです。整形外科を受診してこころのことを持ち出されると、怪訝そうな顔をされる方も多いですが、日本整形外科学会が作成している近年の腰痛ガイドラインにも行動認知療法は有効とされています。しかし10年前に行動認知療法に関心のある整形外科医はほとんどいなかったのが現状ではないでしょうか。

    私の場合、線維筋痛症にリリカ、サインバルタという薬剤が有効であるかを調査する治験に携わった経験から、線維筋痛症の治療として10年くらい前より心療内科的なアプローチを診療に取り入れています。簡単に言うと患者さんの痛みの訴えを否定せず、患者さんに寄り添うことなのだと思います。そして悲観的になりがちなものの見方を少しずつ変えていくお手伝いをすることです。

    また慢性的な痛みがある患者さんは不眠の方が多く、そのことに対しては当院が山田枕研究所と提携して行なっているオーダーメイド枕が有効ではないかと考えています。

    最近ふと考えます。優れたミステリーで様々な伏線が回収されるように、当院の特徴とされる靴外来、枕外来、線維筋痛症の治療はそれぞれ開始した時期も異なりますし、提携先も異なります。一見なんの関連もなさそうに思えますが、実はうまく集約させることで、様々な効果的な治療法とその組み合わせを提供できるのではないか?

    また整形外科は患者数も多く、外来、手術ともスピードが必要なため、気質的にせっかちなドクターが多い印象があり、私自身そういう面は多分にあります。しかし同時に線維筋痛症など慢性疼痛の患者さんのお話を粘り強く聞くことも、厭わないため、幅広い患者さん層に対応できるのが強みではないかと考えています。

    昨年神戸市立医療センター中央市民病院の総合内科部長の西岡弘晶先生からの御指名で行いました線維筋痛症の講演会でもお話しましたが、線維筋痛症に代表される慢性疼痛には整形外科医のみで診断は困難なこともあります。総合内科で鑑別していただいて、最後の診断を私に委ねられている場合も多く、治療においても心療内科医や精神科医や様々な職種の方に助けられております。線維筋痛症の専門医のように紹介されたり、患者さんからも一定の評価をいただいておりますが、ラグビーに例えるとトライを決めたのが、たまたま私であっただけで、ボールをつないでもらっての成果です。慢性疼痛の診断と治療は、まさにONE TEAMで取り組むことが重要だと思います。