2023年5月号 誰にでもできることをきちんとやる
2023/05/22
外科医にとって糸を結ぶという動作は最も基本的な手技です。手術創や血管などの縫合は手術の成否に大きく作用します。そのため外科系の研修医は時間を見つけては糸結びを何千回、何万回と練習します。スピードや糸にかける緊張など、指導医が行う手技を見て学ぶことも大切ですが、見て、理解してわかったというだけでは、十分ではなく、実際自分でできる状況とは雲泥の差があります。誰にでもできる単純な練習をやるかやらないかです。確かにセンスの有無はあるでしょうが、時間をかければ、誰でも一定レベル以上にはなるでしょう。
仕事や勉強、スポーツの練習にも同じ事がいえます。教えてもらって、わかったという状態で満足していては、思ったような成果はでません。しっかり勉強や練習で身につけた知識や技術が全てです。準備、練習が客観的に十分でないなら何回試験を受けても、何回試合に出場しても満足な結果は得られないでしょう。集団で行う仕事やスポーツだと、当然出場機会が減ります。チャンスを与えられている間に成果を収めるか成長を感じられないと上司や監督は見切りをつけます。ボランティア活動や勝敗を問わないサークル活動でもない限り、一般企業やプロスポーツは特にシビアです。
私は学生時代の家庭教師や開業してからのスタッフ教育ではかなり粘り強く頑張ってきました。根性論でなく、楽しさを理解できるように効率的でシンプルな勉強法や仕事の方法を伝授してきました。しかし最終的には本人が基本的な事を繰り返して練習して身につけていくかどうかです。うまくいかない人は根拠がないのに自己評価が高すぎたり、それで出来たら天才だよというくらい圧倒的に努力不足であったり、一生懸命やっているつもりでも、残念ながら他責思考に陥り、失敗から学ぼうとしなかったりします。家庭教師の場合にはお金を支払って教えてもらっているからまだしも、仕事では賃金をもらいながら、教えてもらうのですから、ペースは人によって異なるものの成長していくことが大切で、積極的な姿勢を見せることや明るさを失わないで取り組むことが求められます。
15年近く開業していますといろいろなタイプのスタッフに出会います。最初から仕事の理解が抜群な人もいれば、最初は目立たなかった人がリーダー的な立場に育ったり、大人しかった人が慣れてきて笑顔が増えてきたり、最初はいつまで続くのかと心配していた人が頼もしく育ったりします。退職後も私の通信を毎月読んでくれるM君のようなナイスガイもいます。また最近もありましたが、患者として通院していて、当院のスタッフになりたいといってくれる方もあります。先日内定となった方は理学療法士の資格をお持ちです。
勤務中の空き時間に床を拭いてくれたり、玄関マットのゴミをきれいにしてくれたり、いろいろと気働きできるスタッフがこれまで多数いました。また患者さんが笑顔になるような声かけができるスタッフと働いてきました。単に仕事ができるだけでなく、優しく人として素敵だなと思えるスタッフを今後も輩出していくクリニックでありたいと考えています。
5月16日に弟が高松市で開業しました。さんぜんクリニックという名称で弟は内視鏡のスペシャリストです。開業医にとってスタッフの採用、教育は永遠の課題です。患者さんの立場に立って、信念を持って医療を行なっていけば、患者さん、スタッフとも理解者やファンは増えていきます。昨今、新規開業は大変厳しい時代になりましたが、様々な出来事に一喜一憂せずに頑張って欲しいと思っています。