2018年9月号 医科歯科連携
2018/09/10
大阪桐蔭が春夏連覇を達成した夏の甲子園大会で注目を集めたのが、金足農・吉田輝星投手です。今回取り上げるのは彼の「歯」です。試合中にマウスピースをしていることはご存知の方も多いでしょうが、テレビ画面から彼自身の歯も白く、歯並びも良いように見えます。スポーツ選手がマウスピースをするのは瞬間的に大きな力を出す際に歯を噛み締めて、歯が割れてしまうことがあるため、その予防です。サッカー選手でも世界的なスーパースターであるクリスティアーノ・ロナウドは競技能力を高めるために10代の頃に歯の矯正を行なったそうです。昔「芸能人は歯が命」というテレビCMがありましたが、芸能人では審美的なことが重要視されるのに対して、スポーツ選手の場合は噛み合わせ等を含む、噛み締めて強い力を発揮できることが重要です。一般人の場合、歯は特に重要でないと考えている方はいないと思いますが、年齢と共に歯が抜けていく方が増えて、50代にして既に自分自身の歯が一本もないという人が存在するようです。そして80代になると自分自身の歯が一本もない方の割合が一番高くなります。今後の高齢化社会において、医科と歯科の連携がますます重要になると考えられます。整形外科関係でも抜歯する際に中止が望ましいとされる薬剤がありますし、歯が悪い人は歯周病になっていることが多く、手術の予後にも影響してきます。手術そのものは成功したのに、口腔ケアができていないため、誤嚥性肺炎になり、入院期間が長引いたり、最悪の場合には命を落とすこともありえます。これは整形外科の手術だけに限らず、他科の手術でも同様です。内科入院においても免疫力が落ちていることが多いと推定されますので、歯周病があると入院が長期化する可能性があります。口腔ケアは入院後にも、もちろん必要ですが、持病がなく、入院する予定はなくとも日常生活から取り組むことが重要で、人生100年時代と言われる現在、健康寿命を長くするためにも、自分の歯で噛めることは大切でしょう。また既に筋力低下で「寝たきり予備軍」の方も自分の歯の治療や、例え義歯であれ十分に噛めるようにすることで、リハビリがはかどり、歩けるようになったりします。整形外科的なリハビリだけでは解決できない要素があるということです。もちろん歯科治療にも、医療費はかかりますが、歯科治療を行うことが、認知症予防になったり、術後の入院期間の短縮になったり、糖尿病の薬を減量できることにつながると考えると、全体的な医療費は大きく削減できると予想されます。我々医師も健康に関することをすべて抱えこまないで、予防や治療効果を高めるため、歯科医、薬剤師、義肢装具士、理学療法士、栄養士などと協調し取り組むことが、今後ますます重要になるでしょう。プロスポーツ選手や2020年東京オリンピックを目指す選手、芸能人を目指すあなただけでなく、一般人にとっても歯のケアは必要です。口腔ケアであなたも素敵な輝く星となりましょう。