2020年2月号 乗客の中にお医者様はいらっしゃいませんか?
2020/02/11
「乗客の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」飛行機や新幹線の乗客に急病の患者さんが出た時のアナウンスで、一時期よくドラマなどで見た記憶があります。このようなシーンに遭遇した方はどれぐらいの頻度なのでしょうか。またその際名乗りでる医師はどれぐらいいるのでしょうか?
私はこのような状況に遭遇したことはありませんが、実はこのような状況での診察は医師サイドからするとかなりリスクの高い行動で、先ずどんな症状の患者さんかわからないですし、検査もできず、治療手段も限られています。イチローや伊良部が出場した試合、まだ球場がグリーンスタジアム神戸と呼ばれていた時代のプロ野球の試合に医務室のドクターとして出務した際に、気分が悪くなった患者さんの処置を点滴で治療しましたが、備え付けの薬剤は限られていました。球場と違って飛行機などだと転送もできないので、結果が悪いと訴訟になることもありうると萎縮しがちになります。しかしこのような限られた状況で可能な限りの医療行為をする善意の行動は万が一の場合、重大な過失がない限り航空会社なども補償をするようです。
昨年状況はかなり違うもののプライベート中に医師であることを名乗りでて治療にあたったことがあります。私は髪をカットする際いつも安らかな眠りの中にいます。よってお店の方ともほとんど会話はしません。長年通っていても私が医師であることをお店の方はご存知ありません。ある土曜日の17時すぎにお店に入ると、なにやら東灘区の整形外科が話題になっている。あそこはどうだと先に来られていたお客さんと話されていたので、診療所の格付けが行われているのかと思って聞いていると、どなたかがどうやら怪我をされたらしい。お店のマダムが怪我されたようだが、今日はもう診察している病院はないから、明日、日曜日病院へ行くという結論がでたようなので、私は黙って静かに眠りについた。お店に入ってからこんなに眠りにつくまで時間を要したのは二十数年前にイタリアのフィレンツェで髪をカットした時以来だろうか。
カットが終わって支払いの際に私はマダムに話かけました。「どうされました。セニョリータ」ではなく「どこかお怪我なされたのですか?」とたずねると、マダムは朝に転倒され、左手部が腫れている。私は整形外科医であることを名乗りでて、今からクリニックまで来ていただけると診察しますと告げました。レントゲン撮影すると中手骨が二本骨折していました。幸い転位がほとんどなく簡単な固定で治療できそうでした。翌々日の楽しみにされていた日帰り旅行も無事参加できました。その後順調に治癒しましたが、現在もお店に行った際は冗談で「往診に来ました」と言っています。
昨日の日曜日も腰痛の患者さんを診察しました。24時間全て診療することは物理的にも無理がありますが、救急は医療の原点と考えますので、診療時間外でも私がクリニックに来ている場合には可能な限り診療させていただきます。その際は予めお電話いただければ助かります。