2020年6月号 サイエンス&アート
2020/06/10
将棋の藤井聡太七段が最年少で渡辺明三冠の持つ棋聖のタイトルに挑み、まず先勝したことがニュースになりました。暗いニュースが多い中で、久々の明るいニュースですが、将棋界も新型コロナウイルス感染症のため、しばらく対局が自粛されていました。将棋の場合現代の若手棋士はAI(人工知能)を駆使したり、オンラインの対局で実力をつけた世代ですので、タイトル戦も対面せずオンラインで可能ですが、対局は日本各地のホテルや旅館で行われ、またタイトル戦は和装で臨む棋士がほとんどです。
タイトル戦前後の催しは将棋の普及、特にこれから棋士を目指す子供たちにとって、身近にトップ棋士に接する機会になっています。また観戦者も将棋盤をはさんで対局する棋士の勝負にかける気合や指し手に対する迷い、タイトル保持者の持つオーラは対面のないオンラインでは感じにくいものでしょう。棋譜だけではわからない臨場感がそこにはあり、理詰めで指されていると思われる将棋でさえもアートの要素がある。
医療業界でも最近オンライン診療が話題になりましたが、当院でも約2年前くらいに一度導入を検討したことがあります。遠方(京都や姫路など)から通院される線維筋痛症の患者さんの体調が悪く、通院困難な場合や痛風患者さんで病状が安定している場合は、オンライン診療は有用と考えましたが、当時いろいろな規制があり、当院に通院されている患者さんに役立つことは残念ながら少ないと思われました。オンライン診療の営業担当者からは自由診療(線維筋痛症のセカンドオピニオンや靴のインソールの相談など)の提案がありましたが、診療時間中にオンライン診療を行う時間はなさそうでしたし、オンライン診療導入は見送りました。オンライン診療は診療科や疾患との相性があると考えます。整形外科の場合、オンライン診療導入は現在のところ必要性はそう高くないと考えます。感染症の診察の場合、お互いの安全が確保できるため、有力ではありますが、診療に限界があり、検査もできませんので、どういった形で利用していくかが課題ではあります。
やはりベストなのは直接対面による診察だとは思いますが、そのためにはこれまで同様に待ち時間対策や三密対策が医療機関に求められます。また患者さんサイドで考えますと、テレワークが普及すれば、仕事が忙しくて病院に行けないという状況は緩和されるのではないかと思います。通勤時間がかからないためオンライン診療を利用せずとも自宅近くの医療機関にかかりやすくなりますし、通院のため月に1日もしくは半日の休みさえ取れないような職場は今後淘汰されてしまうでしょう。勤勉なことと必要な時に休みをとることは両立します。生産性を上げ、休みをとりやすい体制を整えるのがこれからの経営には必須です。
人はなぜモナリザを観るためルーブル美術館へ足を運ぶのだろう。やはり映像や印刷物で観るモナリザでは感じることができない、価値、魅力を求めるからだろう。医療にはサイエンスとアートの両面があるため、医療者の我々と診察をうける患者さんのどちらにとっても対面がベストなのでしょう。その結果として両者に「微笑み」がもたらされるなら素晴らしい。