2015年3月号 医師は理系か?
2015/03/11
医学部は理系学部で最難関とされる。したがって数学、物理が得意で大量得点できると入学試験では有利になる。僕も数学、物理で満点近く得点して合格した受験生でしたが、臨床医となれば、高等数学や物理はほとんど仕事に関係ありません。研究者でも統計的解析などはほとんど外注だろうし、ITの進歩は凄まじく、医師が片手間にできるものではありません。すなわち医学部入学時に問われる能力と、いい医師と言われるのに必要な能力は異なっているということです。受験科目でいえば薬の理解のためには化学は必要だろうし、欧米の文献を読みこなすためには英語も必要です。しかし人生経験のない20代の医師はまだひよっこである。自分の祖父、祖母くらいの患者さんと会話し、共感、理解するには人間としての深み、教養が必要とされます。文学、美術、音楽、歴史などに関心がある方がよいだろうし、勤務医の仕事は当直もあり、もちろん体力も必要です。「みみよりつうしん」の原稿を書くには優れた国語力も必要です(?)。そう考えると中学校で学ぶ9教科バランスよく高いレベルで出来ることが理想でしょう。30年前ならコンピューターを仕事で使うのは理系でしたが、いまや文系理系問わずパソコンくらい皆使える世の中になっている。手術もコンピューターで出来るようになってきていて、ある意味人間より正確で、安全と言える。今後いろいろな業務がコンピューターで出来るようになると、医師として大切なものは、コンピューターが出来ないことになってくる。医師は科学者としての目を持ち、物事を論理的に把握、説明すると同時に、患者さんの人生観や人生経験から生まれる感情、情緒といったものに対する理解が益々重要になってくるのでしょう。現在のところ喜怒哀楽の感情は人間しか持ちえないので、人と人のつながりとして、患者さんも自分を理解してもらえる相性のいいかかりつけ医を持つことが大切でしょう。開業以来医療に笑いが必要と言っているのには理由があって、今や将棋のプロがコンピューターに負ける時代になりましたが、明石家さんまを超えるお笑いコンピューターはできそうにない。楽しむために病院に来られているわけではない患者さんが、医師との会話で笑顔になられる。それを達成するためには人間への深い理解と観察と思いやりが必要となり、不謹慎にならずに笑いに転化できる能力はある意味人間最高の叡智ではないだろうか。そのようなことを考え日々の診療を行っている僕である。