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2019年7月号 心に残る恩師の言葉

2019年7月号 心に残る恩師の言葉

2019/07/12

 中学2年生の時にこんな出来事があった。ホームルームの時間に僕はため息をついたということで担任のA先生から廊下に立っているよう命じられた。本人にはその自覚がなかったので、理不尽な話だと不満をもちながら、廊下に立っていた。指示に反抗する意味でグランドを走ってやろうかとも考えましたが、さすがにそれはやめておきました。

 休み時間になり、僕は教室に戻されました。そしてクラス全員に向かって、バレーボールの顧問をされていたA先生はこう仰った。チームを編成する場合、得点を稼げるエースを決める。ローテーションがあるので、エースが後衛にまわった時に前衛の第2エースを次に決める。第2エースが順調に力をつけていけば、チームの実力を安定させることができる。しかし第2エースの人材が不足している場合どうするか。その場合はエースをさらに鍛えて絶対的エースというべき存在に育てるしかないという話をされた。すなわち僕に絶対的なエースとして大車輪の活躍でクラスを引っ張っていってくれというメッセージだった。同級生のうち何人がその発言の真意を理解したのかは定かではないが、その時のA先生の僕を見る目がすべてを物語っていた。

 僕がホームルーム中にため息をついたかどうかは定かではありませんが、もしかすると公立中学校の同じような内容の話し合いにつまらなそうな表情を浮かべていたのかもしれません。しかし普通に考えると廊下に立たされるようなことではなかったと思います。当時ツッパリ君たちがどこのクラスにもいたし、勉強ができても、素行がよろしくない同級生もいました。僕への期待とクラスを引き締めるためにA先生はエースでも叱られるんだというショック療法のため、アドリブで一芝居うたれたのではないかと思い、数十分間の不満はその場で氷解しました。もしかすると危険な賭けだったのかもしれません。僕が担任のA先生に不満をもち続けて、そっぽを向いてしまうと、クラスは完全に空中分解していたでしょう。しかしそうはならないとA先生は見抜いておられて、それは僕に対する信頼があったからだと思っています。

 有名校や名門校といわれる学校の校訓を見ると今年NHKの大河ドラマの舞台にもなっている東灘区にある超有名校の「自他共栄」など、異口同音に他人のために尽くせという趣旨の内容が多いです。一方で現在の世の風潮で自分さえよければという人も多い。確かに自分の生活が第一ではあるけれど、リーダーとなるべき可能性のある若い人材が小さくまとまってしまったり、自分の利益だけに暴走してしまってはいけないのだと思います。

 人に何かを与えたり、また人から何かを受け取ったりする場合、多くの人は出来るだけ多く受け取ろうとするのだけれど、そこに本来の幸せはない。少なくともリーダーたる人間は社会のために汗をかくぐらいの精神的、肉体的余裕が必要なのでしょう。

 中学時代にA先生が私にかけてくださった期待に十分応えられているのかというと自信はありませんが、確かに先生からの魂は今も心に残っています。嵐がイメージキャラクターをつとめている年賀状はSNS全盛の今減少の一途ですが、今でもA先生とは年賀状のやり取りをしています。しかしこの出来事のことは一度も触れていないと思いますので、感謝の気持ちをここに記します。「A先生、ありがとうございました。先生は僕の恩師です。」