2022年5月号　覚悟がすべて

　舗装されていない困難な道を歩いてきました。それでよかったと思えるし、今後も困難だがやりがいのある選択をしていきたい。医者の世界には、才能に恵まれたり、超人的な努力を苦もなくできる人物がゴロゴロいます。そんな世界に入って、今までやってこれたのは覚悟があったからです。医師国家試験に合格した時、5年間一生懸命にやってみようと思いました。自分が通用しないとわかればスッパリと医療業界と決別しようと考えていました。これは医学部入学前からの思いです。本当の思いを書くと合格したから言えるのだろうとお叱りをうけるかもしれませんが、客観的に見て、高校生の時から医学部入試も医師国家試験も合格できると確信していました。しかし人の生命を預かるような責任のある仕事が自分に務まるかは自信がありませんでした。医学部に進学するにあたって、医師になってからを心配していました。

　例えば自分の受け持ち患者さんが10人で、そのうち1人の患者さんが早朝に亡くなったとします。他人であれ、診療してきた患者さんが亡くなればもちろん悲しい。そんな状態でも朝9時になれば、悲しみを引きづらずに、何事もなかったように他の9人の患者さんに接しなけれはならない。このようなことが自分にできるのだろうかと、感受性の強かった10代の私は不安を抱え、自信がありませんでした。医師など社会的に地位の高い人物には、他人に共感できないサイコパスが多いといわれていますし、実際にそうだと思います。私の悩みはサイコパスには無縁の悩みです。

　医師という仕事を続けて自分自身成長できたのだと思います。患者さんとの距離感も自分なりに考えてきました。医師の仕事は無理をしすぎると、体と心のバランスを崩します。働き方改革にももっとも馴染まない職業の一つです。診療の忙しい日は「無理をしないでくださいね。」と私の体調を気遣ってくださる患者さんも、数多くいらしゃいますが、持病一つなく、身体で痛い個所は皆無ですし、普段から絶好調ですが、5月の上旬からなぜか一段と体調がよくなりましたので、ご安心ください。

　また最近のインターネット社会では、客観性のない誹謗中傷も飛び交います。どんな人物でも仕事でも100パーセント支持されることはありません。真摯に誠実に仕事をすることは当然ですが、他人の意見にふりまわされない覚悟も必要です。この世の形や政治やシステムが完璧ではない以上、理不尽な事もあります。しかしそのことで失望したり、やる気がなくなるのは馬鹿げている。それでもやっていく覚悟が必要です。医師の家系でもなく、出身地でない地域で開業すれば、最初から歓迎されることを期待する方が間違っているし、新型コロナ感染症で医療従事者が大変な思いをしたとしても、医師ってそもそも大変な仕事でしょと思っている私からするとストレスではありません。

　覚悟さえあれば、たいていうまくいく。そして普段はそれを胸に秘めておけばいい。明るく楽しいことを考えておけばいい。病状で客観的な事実は説明しなければなりませんが、必要以上に不安を煽りたてる医療より、未来に希望を見出せる医療をやっていきたい。